1. プール血清の役割をおさらい
まずはプール血清を作るか作らないのかという話の前に、プール血清の役割についておさらいしておきましょう。
これがわからないと判断がつけられないので、基礎的な知識を復習しましょう。
はじめにプール血清を作る目的については「マトリックス効果」への対応です。
「マトリックス効果」とは試料中に存在する標的物質を測定するのに際して、試料中あるいは試薬中の物質が反応系に干渉してしまい測定値に影響を及ぼしてしまう現象をいいます。
「マトリックス効果」はあまり聞きなれないワードかもしれませんが、臨床化学をやっている人であれば何となく聞いたことがあるかもしれませんね。
ちなみに「マトリックス」は、キアヌ・リーブスでお馴染みの映画「マトリックス」とはまったくの別物ですのでご注意ください。
検査技師界で話題になる「マトリックス効果」の「マトリックス」とは、「材料・物質」を指していますので覚えておいてくださいね。
さて、なぜプール血清がこの「マトリックス効果」が起きた場合に有用なのか、という話に戻します。
特にマルチコントロールでマトリックス効果が起きる場合があるのですが、そのようなときにこれはマトリックス効果が起きている、あるいは起きていないという判断材料になります。
マルチコントロールとは例えばシスメックス社の「QAPトロール」やシノテスト社の「Aalto」のように、1つの試料で複数の項目を測定できるコントロール試料をいいます。
しかしなぜ、プール血清がマトリックス効果が起きているのかどうかの判断材料になるのでしょうか。
それはマルチコントロールにはたくさんの薬品が添加されており、さらに血清のベースが何なのか(ヒト、ウシなど)によって、それが試薬の添加物と交差反応を起こすことがあるのですが、プール血清は完全にヒトベースであり、薬品濃度もほぼゼロですので交差反応が起きにくいのです。
ですのでプール血清はマトリックス効果が非常に発生しにくいわけです。
これがプール血清の役割であり、存在意義です。
具体的にどんな場面でプール血清が活躍するのかも話しておくと、例えばいつも測定しているマルチコントロールが突然管理幅内に収まらなくなり、キャリブレーションをしても測定値は変わらずに戻らない、という場面です。
ここでプール血清の測定値を確認してみて、マルチコントロールははずれていてもプール血清はいつも通りの測定値を返してればマトリックス効果の可能性が高いです。
試薬のロットによっても反応性が変わってきますので、そのあたりも確認してみてマトリックス効果かどうか判断してください。
マトリックス効果であればもうそのマルチコントロールの測定値は動かず管理幅からはずれたままですので、新しく管理幅を決め直すのか、試薬のロットを戻す、あるいはさらに新しい試薬ロットで試してみるなど、検討する必要があります。
特にQAPトロールは値付のない、何が正解かもわからない試料ですので正直困ります。
「じゃあ、使わなきゃいいだろ?」と思うかもしれませんが、特に脂質のマルチコントロールは「高価な確認用管理試料」しかない場合が多いので、やはり値付のないマルチコントロールで運用するしかないのが現状です。
コントロール値が管理幅内に収まらくなったら腕の見せ所として、プール血清を使ってみるなりなんなりして、その原因を追究してみましょう。
「ところで、プール血清ってどう作るの?」については下記のブログで解説していますので、作り方を知りたい人はどうぞ。
なんで購入しているコントロール試料があるのにも関わらず、わざわざプール血清を作るんだろう。作り方には工程が多いけど、その理由は何なんだろう。作ってみたけどデータが安定しない…。プール血清についてこのように悩んではいませんか?このブログではプール血清の作り方とその意義について解説し、みなさんがドヤ顔でまわりに語れるくらいのレベルに引き上げます。臨床検査技師であり、生化学に携わっているのなら間違いなくチャンスですよ。
プール血清がなぜ作られているのかも知らずにルーチンをしている人はたくさんいると思いますので、ここでしっかりと理解しておきましょう!
ウエノ