2. プール血清を精度管理に使用する利点
前の項でプール血清の最大の利点は「完全ヒト血清」であることはお伝えしました。
「完全ヒト血清」であることがなぜプール血清の利点となるのでしょうか。
市販の管理試料というのは、ベースとなる血清が「ヒト」だけでなく「ウシ」であったり「ウマ」であったり、「ヒツジ」であったりと様々です。
これが何が問題なのかといいますと、試薬に対して若干の反応差を生じることがあります。
反応差を生じると測定値にも影響を及ぼし、「ヒト」ベースの血清より高値であったり低値であったりと測定値が変動します。
しかもこれが試薬ロットによってマチマチであり、影響が出る出ないが予測不能です。
さらにいうと、「ヒト」血清ベースであっても管理試料がマルチコントロールであれば測定値を調整するため様々な薬品を混ぜ合わせるため、その薬品の影響で反応性に違いが生じることもあります。
マルチコントロールというのは1つの管理試料で複数の検査項目を管理できる試料で、例えばシスメックス社の「QAPトロール」やシノテスト社の「Aalto」、セロテック社の「セロコン」などです。
マルチコントロールは複数の検査項目をある程度の測定値でキープしなければならないので、各項目が濃い濃度(高値)で存在する薬品を混ぜ合わせて作成します。
この混ぜ合わせた薬品の影響で、本来とは違った反応をしてしまい試薬ロットが変わったタイミングで管理幅から逸脱してしまうこともあります。
これを「マトリックス効果」といい、試薬と試料の反応に何らかの影響を受けているときに使用される用語です。
マトリックスとはキアヌ・リーヴスの映画でもなくミトコンドリアの内部でもなく、「材料」や「物質」を指していますので覚えておきましょう。
ここまでの内容をまとめると
- 管理試料にはベースとなる血清の由来動物種類によって反応性に影響が出ることがある
- 管理試料に投入されている薬品にもよって反応性に影響が出ることがある
ということです。
要は管理試料は「マトリックス効果」の影響を加味しなければならない、ということです。
特に試薬のロットが変わったタイミングで起きることが多いということですね。
では精度管理をしていくうえで、マトリックス効果が疑われた場合はどうすれば良いのか。
そこで活躍するのがプール血清なのです。
プール血清を精度管理に使用する利点は「マトリックス効果なのかどうかを判定できる」ということなのです。
プール血清の特徴を思い出してください。
プール血清の最大の利点は「完全ヒト血清」であることです。
しかも薬品も入っていませんので、純粋な反応をする試料なのです。
薬物を投与されている患者もいるではないか、という声が聞こえてきそうなので解説しておくと、プール血清は不特定多数の何十何百人の血清を混ぜ合わせますので、患者の大半が同じ薬物を大量に投与されてでもない限りはほぼゼロ濃度にまで希釈されます。
よって薬物の影響はまず出ません。
という理由で、管理試料でマトリックス効果が疑われた場合はプール血清の測定値を見てみて、プール血清の測定値に変動がなく管理試料のみで変動しているようであればマトリックス効果が疑われます。
また、例えば管理試料が2濃度などの複数タイプの場合、プール血清と基準範囲の方はいつもと変わらないが、高値の方だけ逸脱してしまった、というときもマトリックス効果が疑われることもあります。
何が言いたいのかというと、同じ管理試料でも濃度によって投入しているしている薬品が違うため、片方だけ逸脱してしまうこともあります。
管理試料を新しくする、キャリブレーターの溶解に間違いがないか確認する、キャリブレーションを行うなど然るべき対処をしてみてもどうしても解消されず、試薬ロットを戻してみると解消される場合はマトリックス効果が強く疑われます。
プール血清はこのようにマトリックス効果が疑われるときにとても活躍します。