1-3. 本当にHbA1cは嘘をつかずに過去の血糖値を完全に反映するのか
最後に「本当にHbA1cは嘘をつかずに過去の血糖値を完全に反映するのか」を解説します。
先に結論をいうと「NO」です。
HbA1cが血糖値を正確に反映しなくなる病態があるため、真の値より高くなったりも低くなったりもすることがあります。
実際に日本糖尿病学会では、糖尿病の診断においてHbA1cのみの反復検査による糖尿病診断は不可としています。
ではどんなときにHbA1cが血糖値を正確に反映しなくなるのでしょうか。
それは「異常ヘモグロビン」を持つ場合と「貧血」の場合です。
異常ヘモグロビンとは、通常のヘモグロビンとは違う構造のヘモグロビンをいい遺伝性のものがほとんどです。
地域性のものや人種性のものもあり、有名なものでいえばヘモグロビンS症(鎌状赤血球症)というものがあります。
これはアメリカの黒人の10%がヘモグロビンS症の原因になる遺伝子を1つ保有している人種性のものです。
日本人でも3000人に1人は何らかの異常ヘモグロビンを持っており、その種類は200種類以上になると言われています。
異常ヘモグロビンがあると、どうHbA1cの測定に影響してくるのでしょうか。
それは異常ヘモグロビンの「電荷」が鍵を握っています。
HbA1cの測定法には主に「HPLC法」、「免疫法」、「酵素法」という3つの測定法が用いられおり、大多数の施設で使用されている「HPLC法」の場合にこの「電荷」が大きく影響してきます。
HPLC法では「カラム」という電荷ごとにヘモグロビン成分を分離するものを使用し、それぞれを分画として表します。
異常ヘモグロビンはその種類によって電荷がマチマチであるため、どこに分離されてくるかはわかりません。
ですので、異常ヘモグロビンがあるとどこかの分画に混ざってきてしまうため、分画図がおかしくなります。
よってそのおかしな分画図のおかげで正しくHbA1cの分画が認識できず、測定値が高くも低くもなったりしてしまいます。
一方、「免疫法」と「酵素法」は測定法が大きく異なり、電荷は関係ありませんので異常ヘモグロビンの影響をほとんど受けずに検査できます。
もし異常ヘモグロビンが疑われ「HPLC法」で測定しているようであれば、こちらの「免疫法」や「酵素法」で測定してみると良いですよ。
ただし、当院のように「HPLC法」も「酵素法」も導入し併用して使用している施設は少なく、多くの施設は「HPLC法」のみですのでどこの施設でもできる話ではないですが。
次に「貧血」の場合の話です。
HbA1cと貧血の関係で最も有名なのは「溶血性貧血」であり、これは赤血球が寿命を迎える前に血管内で破壊されてしまう疾患です。
ということは、安定型HbA1cになる前、もしくは安定型HbA1cになった赤血球が通常よりも早く破壊されてしまうという事態が発生するため、HbA1c値は低くなってしまいます。
また赤血球が破壊された分を新しく産生する関係で、HbA1cの割合が相対的に低くなってしまうため、HbA1c値はやはり低くなってしまいます。
このような理由がありますので、「本当にHbA1cは嘘をつかずに過去の血糖値を完全に反映するのか」という問いの答えは「NO」となります。