1. 【グルコース(GLU)】とは
グルコースとはすなわち血糖値のことであり、よく糖尿病でHbA1cと同じく話題になる物質です。
血糖値と聞くと、イコール糖尿病を引き起こす物質としてあまりイメージは良くないと思いますが、生体内ではとても大切な働きをしています。
グルコースは生体内において重要な「エネルギー源」です。
食事などで得られた糖分は小腸粘膜から吸収されて肝臓に運ばれ、血液循環により全身をめぐるうちに各臓器細胞に取り込まれ「解糖系」という生体内反応を経て、クエン酸(クレブス)回路、そして電子伝達系へと引き継がれて莫大なエネルギーを生み出しす。
そのエネルギーというのは「ATP」と呼ばれるものであり、様々な細胞の働きや営みで消費されるエネルギーです。
このATPを一気に大量に生み出すグルコースがないと、エネルギー不足で生命を維持できません。
とはいえ、そんな生体にとって重要なグルコースですが、逆にありすぎると不具合を起こします。
それがみなさんもご存知の糖尿病ですね。
グルコースが多すぎて高血糖状態が続くと、過剰のグルコースは血管を作っている細胞の蛋白と結合して細胞本来の機能を失わせてしまいます。
このために目や腎臓や神経の微細な血管が障害されてしまい、糖尿病性の網膜症、腎症、神経症を起こし、重篤な場合は目を失明したり、腎不全で透析をしなければならなくなったり、歩行が困難になったりもします。
また、動脈硬化により心筋梗塞を起こしやすくなります。
莫大なエネルギーを生み出す大切な物質でありながら、その制御が効かなくなると大暴れしてしまう諸刃の刃のような物質がグルコースです。
生活習慣や甘いものの取りすぎにはみなさんも注意しましょうね。
ところで、食事で余分に取りすぎたグルコースはすぐに血管の細胞に結合して悪さしてしまうのかというと、そうではありません。
余分なグルコースは必要時にエネルギーを供給する「エネルギー貯蔵物質」として生体内に保存されます。
エネルギー貯蔵物質には2種類あり、貯蔵される場所によってその形を変えて保存されます。
1つ目は「グリコーゲン」です。
食事でとりこまれたグルコースは小腸粘膜で吸収されて門脈に入り、その半分は肝臓に取り込まれそのまま肝臓で、そして筋肉中で「グリコーゲン」という物質として貯蔵されます。
肝臓はグルコースが供給される間はグリコーゲンを合成することによりその貯蔵を図りますが、供給されなくなったり、他臓器や細胞がグルコースを必要とするときには、グリコーゲンを分解し「糖新生」と呼ばれる生体内反応をもってグルコースを生成し血中へ放出します。
一方、筋肉中のグリコーゲンは肝臓のようにグルコースが足りない臓器や細胞に使うのではなく、そのまま筋運動用として保存され必要があれば使用されます。
2つ目は「トリグリセリド」です。
食事で摂取されたグルコースは肝臓でグリコーゲンに合成される一方で、トリグリセリドにも合成されます。
また脂肪組織(みなさんもご存知の皮下や内臓周りにあるプニプニしたものを医学っぽく呼んだもの。主として女子の天敵)でもトリグリセリドに合成されます。
トリグリセリドは中性脂肪とも呼ばれ生活習慣病の主犯格としてとてもイメージの悪い物質ですが、それも真実ではありますが別の顔も持っており、生体にとって重要な働きをしているすごい物質なのです。
じつはトリグリセリド、脂肪物質でありながらグリコーゲン以上のエネルギー貯蔵物質としての機能を持っているのです。
トリグリセリドはグリコーゲンの6倍ものエネルギーを貯蔵でき、しかもグリコーゲンは貯蔵量に制限があるにも関わらずトリグリセリドはまさかの無制限に貯蔵できます。
見直しましたよね、トリグリセリドのこと。
しかし、いくらトリグリセリドが高エネルギー貯蔵物質で無尽蔵に貯蔵できるとんでもない物質とはいえ、所詮脂肪ですので増えすぎると悪さするのは周知の事実です。
余談ですが人類の歴史として、まだ狩猟の時代は常に「飢え」との戦いであり、生体としてエネルギー保存がとにかく重要でした。
しかし皮肉なことか、現代において「飢え」との戦いは無縁のものとなり、逆に仇となっているのがこのトリグリセリドなような気がします。
トリグリセリドは原始人にとっては確保するのが大変で重要な物質であり、普段の生活をしているだけで消費される貴重なものでしたが、現代人においてはもはや増えやすいただの危険因子であり、減らすには多大な労力が必要という真逆な扱いになってしまいました。
これはヒトの身体が昔の生活に合わせたままアップデートされていない部分が残る事例の1つかもしれませんね。
話は戻って補足として、グリコーゲンとトリグリセリドについて、この2種類のエネルギー貯蔵物質の使われかたについても解説しておきますね。
グルコースの供給が絶たれると、まずはグリコーゲンから使用されエネルギーに転化され、それが尽きるとトリグリセリドが消費されます。
しかし、トリグリセリドからエネルギーを取り出すには大量の酸素が必要になります。
ですので「脂肪を燃焼するには30分以上の有酸素運動をしましょう」というキャンペーンがされているわけです。
臨床検査技師向けにもっと深堀りしておくと、グリコーゲンが尽きるとトリグリセリドがリパーゼによって脂肪酸とグリセロールに分解されます。
特に脂肪酸に莫大なエネルギーが秘められており、この脂肪酸を分解してエネルギーを取り出すのに大量の酸素が必要となるのです。
ちなみにその得られたエネルギーの使い道についてですが、脳の活動に半分、そして残りの半分のほとんどを筋肉と赤血球に使用されます。