【臨床検査】尿素窒素(UN)について現役臨床検査技師が徹底解説します

みなさんこんにちは!

「Webサイトエンジニア」×「臨床検査技師」のハイブリットおじさんこと、ウエノです。

Webサイトエンジニアではありますが、現役で臨床検査技師を15年しています。

今回は検査でよく測定される「尿素窒素(UN)」について徹底解説します。

このブログは一般の方が見ても、同業の臨床検査技師が見ても有益となるように、わかりやすくも専門的な知識を散りばめ「超勉強になった!」と感じてもらえることを目的に設計しています。

そしてみなさんがこのブログで得た知識を周りの方々に語り、ドヤ顔をしてもらえれば本望であり、ブログを書いている僕としてもこの上なく嬉しいです。

では、尿素窒素について解説していきます。どうぞっ!

【尿素窒素(UN)】とは

病院などでよく検査される「尿素窒素」とは、血液中に「尿素」がどれくらい停滞しているかを知るために検査されている項目です。

尿素値を直接測定することは難しいので、尿素に含まれる窒素成分(これを尿素窒素と呼んでいます)を測定することによって間接的に尿素値を検査しています。

よって尿素と尿素窒素はまったく同じ動きをします。

ですので尿素値が高い、すなわち尿素窒素値が高いと腎機能が低下していることがわかります。

正常な状態では尿素は腎臓から尿中に排泄されますが、腎臓の機能が低下すると尿素は尿中に排泄されにくくなるため血中の濃度が上昇します。

それに伴って血中の尿素窒素値も上昇しますので、尿素窒素を測定することにより腎臓の機能状態を知ることができます。

尿素窒素は検査結果欄には単に「UN(Urea Nitrogen)」と表記されていたり、血中の尿素窒素ということで「BUN(Blood Urea Nitrogen)」と表記されていたりと施設によって異なりますが、意味合いとしては同じです。

ただし、尿中の尿素窒素を表記するには「U-UN」としますが、「U-BUN」とはしませんのでご注意ください。

ちなみに尿素((NH2)2CO)と尿素窒素(N)の関係についてもう少し深堀りしておくと、尿素の分子量は60であり、その中に窒素成分(N)が2分子ありますので尿素窒素の分子量は28となります。

よって尿素窒素値に2.14(60/28)を乗じると尿素値に変換できますので、豆知識として知っておくと良いでしょう。

次に尿素の生成と排出について、その流れを解説します。

まずは尿素の生成について。

食事で摂取された蛋白はアミノ酸へと分解されてエネルギーとして消費された際に、アンモニア(NH3)という生体内において有毒な成分を生成します。

アンモニアは毒性の高い成分ですので、このまま放置するわけにはいきません。

そこで活躍するのが肝臓であり、解毒機構である尿素回路(オルニチンサイクルともいう)によってアンモニアは無毒で水に溶けやすい尿素に変換されます。

このように尿素は生成され、変換された尿素は腎臓に運ばれて糸球体から尿中に漏出し、身体の外に排泄されていきます。

これが生体内における尿素の流れであり、起点となる蛋白の摂取が少ないと尿素窒素値は低くなり、腎機能が低下すれば排泄が上手くいかなくなりますので血中に停滞し尿素窒素値は上昇してきます。

尿素窒素が高くなったり低くくなったりしたときは、このメカニズムを思い出してくださいね。

またこれは余談ですが、尿素には保湿成分として機能の高い物質ですので、蛋白摂取量が少なくて尿素窒素値が低下したりすると「かゆみ」が生じることもあります。

かゆみの原因には尿素が絡んでいることも多いため、じつは市販されているハンドクリームや保湿製品にはたいてい尿素が含まれているのはご存知でしたか?

尿素はただの生体内の機能指標だけでなく、このように保湿成分としても活躍している物質なのです。

ちょっと意外ですよね。

【尿素窒素(UN)】の基準範囲

尿素窒素の基準範囲は8.0 mg/dL ~ 20.0 mg/dLです。

尿素窒素には性差があり、女性は男性より10 ~ 20%低くなります。

※基準範囲は施設や文献によって多少前後します。これはそれぞれの機関がそれぞれの条件で、それぞれの母集団から得られたデータから導き出したものを使用しているためであり、多少バラつきがあります。

【尿素窒素(UN)】の臨床的意義

なぜ尿素窒素を検査するのでしょうか。

それは第一に腎機能の状態を見ているからです。

繰り返しますが、腎機能が低下すると尿素が尿中に排泄されにくくなりますので、血中に停滞します。

ですので尿素窒素値が高値になります。

このように尿素窒素は腎機能評価の指標に役立ちます。

しかしながら、尿素窒素は完全に腎機能を反映するわけではありません

じつは、腎機能が半分くらい落ちてきてはじめて尿素窒素値が少しずつ上昇してくるからです。

特に腎機能が3/4ほど障害されてくると急速に尿素窒素値は上昇します。

ですから、尿素窒素値が基準範囲内だからといって腎機能が正常だとはいえないわけです。

ちなみに腎機能をよく反映する検査項目には、クレアチニン(Cre)や糸球体濾過値(eGFR)があります。

これについては下記のブログで詳しく解説していますので、併せてどうぞ。

クレアチニン(CRE)について一般の方が見ても、臨床検査技師が見ても有益となるように網羅的にどこよりもわかりやすく解説します。実務で携わっているからこそよりリアルで、より詳しく解説できます。ここで得た知識をぜひまわりの方々に語りドヤ顔してくださいね。

尿素窒素にはもう1つ特徴があり、それは腎外性因子に強く影響されてしまうことです。

腎外性因子とは、脱水や心不全、食事の蛋白量、消化管出血、肝疾患などの腎機能以外の要因を指し、これらの影響で尿素窒素値が上下することがあります。

よって腎機能の検査をするなら、尿素窒素と一緒にクレアチニンを測定し糸球体濾過値も計算すると良いでしょう。

「いやいや、ウエノさん。尿素窒素は腎機能がかなり障害されてこないと高値にならないし、腎外性因子などの影響も受けるからあまり必要ないのでは?」という声が聞こえてきそうですので、もう少し深堀りしておきますね。

例として、尿素窒素値とクレアチニン値の変動をモデルに解説します。

クレアチニン値が上昇しているにも関わらず尿素窒素値があまり上昇してきていないのならば、単純に腎機能に軽度の障害が起きているということが疑われます。

次に、クレアチニン値がかなり上昇していて尿素窒素値もかなり上昇しているならば、腎機能に大きな障害が起きていることが疑われます。

最後に、クレアチニン値が基準範囲内なのにも関わらず尿素窒素値が上昇してきているならば、腎外性因子などの影響が疑われます。

まとめると、腎外性因子などの影響ではなく本当に尿素窒素値が高い(クレアチニンと同じ動きをしている)ならば、腎機能の「重症度判定」に有用であるといえます。

繰り返しますが、尿素窒素値の見方として大切なのは、「腎機能障害が起きているかどうか」ではなく「腎機能の重症度判定」です。

ここが超重要ポイントですので、これだけはしっかりと頭に叩き込んで帰ってくださいね。

【尿素窒素(UN)】が高値を示す状態・疾患

尿素窒素(UN)が高値を示す状態・疾患の筆頭はもちろん腎機能障害です。

そして腎外性因子などの影響でやや高値になることもあります。

尿素窒素値の上昇具合によってどのような状態が疑われるのか、そのあたりを見ていきましょう。

ちなみに基準範囲は前述しましたが、8.0 mg/dL ~ 20.0 mg/dLです。

  • 尿素窒素値20.0mg/dL ~ 25.0mg/dL

    主に病的ではない尿素の過剰生産が疑われます。高蛋白食の場合、尿素の元である蛋白を大量に摂取するため結果的に尿素が多くなります。また、癌や外科的侵襲などで消化管出血があると、血液と共に消化管に出た蛋白が分解されてアンモニアになり、これが肝臓に運ばれて尿素が余分に合成される関係でやや高値となることもあります。

  • 尿素窒素値25.0mg/dL ~ 50.0mg/dL

    主に尿素の排泄障害が疑われます。尿路閉塞や慢性腎炎などでは尿の排泄が障害されますので高値となります。また、脱水を引き起こして腎血流量が低下した状態では、尿細管から尿素窒素の再吸収の割合が増加し尿素窒素値が高値となります。

  • 尿素窒素値50.0mg/dL ~ 100.0mg/dL

    ここまで上昇してくるほど腎機能が障害されている状態だと治療が難しくなります。代表的な疾患でいえば「腎不全」です。腎不全では尿の排泄がほとんどできなくなりますので、老廃物や身体に有害な物質が体外に捨てられずに溜まってしまいます。その結果、全身がだるく感じてきたり、息苦しくなったりと様々な症状が出ますが、特に電解質の調整ができなくなる関係でカリウムが高値になりますので、放っておくと心停止を起こします。腎不全よりさらに上のステージもありますが、もうこの時点で治療は難しい、もしくは見込めない状態ですので、腎移植や透析療法に移行することがほとんどです。ただし。これは「慢性腎不全」の場合であり、「急性腎不全」ならばまだ回復の見込みはあります。

  • 尿素窒素値100.0mg/dL ~

    腎不全の末期状態で腎不全による身体的不調、例えば食欲低下や疲れやすい、だるい、息切れ、高血圧、浮腫、貧血、睡眠障害や痙攣がではじめると「腎不全」から「尿毒症」に言い換えられます。尿毒症は末期腎不全と考えてもらえれば良いです。病院嫌いで尿が出ていないのにも関わらず放置していると、知らず知らずのうちに尿毒症にまで進行していました、なんてことにはならないにように注意しましょう。

【尿素窒素(UN)】が低値を示す状態・疾患

尿素窒素(UN)が低値を示す状態・疾患としては、主に尿素の生成量減少が挙げられます。

例えば、菜食主義者では元となる蛋白の摂取量が少ないため、尿素の生成量が少なくなり低値となります。

また、普通に食事をしていても肝障害で尿素生成量が減少してしまう場合でも低値となります。

妊娠している場合でも低値になることもあり、その理由としては循環血液量が増えるために血液が薄められたり、胎児の発育に利用されるために結果的に低値になることもあります。

尿素の生成量とは無関係なパターンとして、尿崩症という尿量が異常に多くなってしまう疾患では、生成された尿素を尿中に排泄する機会が増える、あるいは水分の再吸収量の低下によって血中尿素窒素値は低値になります。

【尿素窒素(UN)】の生理的変動
  • 年齢

    生後60日までは成人より5mg/dL程度高くなり、その後成人値となり、60歳以上で上昇していきます。

  • 日内変動

    食事の摂取と代謝亢進のため、夜間より日中の方が高くなります。

  • 季節性

    気温の関係で代謝の亢進する夏と厳冬にわずかに高くなる傾向にあります。

【尿素窒素(UN)】の検査について ※臨床検査技師向け

尿素窒素についてはこれまでの解説で一通り済みましたので、次からは尿素窒素の検査について臨床検査技師向けに専門的な知識や検査に影響を及ぼす要因について解説していきます。

一般の方でも知見を広げる意味で、ご興味があればどうぞ!

尿素窒素を測定する方法には「内因性アンモニアを消去する方法」と「しない方法」があります。

尿素中の尿素窒素を測定する反応経路のはじめに、まずは尿素からアンモニアを分離するのですが、ここで内在的に存在しているアンモニアを消去しないとその分高くなってしまいます。

専門用語的には「ゲタバキしてしまう」となります。

健常人ならばアンモニアはオルニチンサイクルによって、そのほぼすべてが尿素に変換されてほとんどない状態ですが、肝障害によって肝機能が低下してアンモニアが尿素に変換されにくくなっていると血中に停滞しますので、内因性アンモニアを消去する測定法でないとゲタバキしてしまいます。

という理由で、現在では「内因性アンモニアを消去する方法」が主流ですので、こちらの測定法をご紹介します。

測定法名は「ウレアーゼ・グルタミン酸脱水素酵素法(内因性アンモニアを消去する方法)」です。

まずは第一反応として、内因性アンモニアを消去します。

検体中にあらかじめアンモニア(NH3)が存在する場合に生じるβ-ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(β-NADP+)は、マグネシウムイオン(Mg2+)とイソクエン酸の存在下でイソクエン酸脱水素酵素(ICDH)の作用により、再びβ-ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(β-NADPH)へと変換されるため、所定の吸光度が維持されるとともにアンモニアが消去されます。

第一反応の図

次に第二反応として、尿素を分解して発生したアンモニアで尿素窒素値を求めます。

ちなみにアンモニア(NH3)の「N」の部分が窒素成分であるため、これを尿素中の窒素成分として「尿素窒素」と呼んでいます

測定原理について。

第二反応ではウレアーゼを作用させて尿素よりNH3を遊離させるところからはじまりますが、この際にはICDHの活性に必要なMg2+を第二試薬中のEDTAでキレートさせるため、ICDHが作用できないようにしています。

よってβ-NADP+のβ-NADPHへの再転換反応は生じないため、ウレアーゼ反応によって尿素から生じるNH3を特異的にGLDH反応系へと導いていけます。

反応過程としては、検体中の尿素はウレアーゼの作用によって2分子のアンモニア(NH3)と1分子の二酸化炭素(CO2)に加水分解されます。

生じたアンモニアはβ-NADPHの存在下でグルタミン酸脱水素酵素(GLDH)の作用を受けα-ケトグルタル酸(α-KG)と反応し、L-グルタミン酸と水分子(H2O)を生じます。

このとき、β-NADPHは酸化されてβ-NADP+となりますので、β-NADPHの減少に伴う吸光度の減少速度を測定することによって尿素窒素値を求めます。

第二反応の図

溶血、乳び、黄疸による色の影響、測定に干渉する物質等は特にありません。

測定法が「内因性アンモニアを消去しない方法」であれば、測定器具、試薬のアンモニア汚染、アンモニウム塩を用いた抗凝固剤で採血した血漿を試料とする場合等では正誤差(ゲタバキ)となりますの注意してください。

【尿素窒素(UN)】のまとめ ※さくっとまとめて見れる一覧表付き

ここまで尿素窒素について1つ1つ網羅的に解説してきましたので、あとはみなさんがご自身のメモリ(脳)にインプットするだけです。

インプットしたら今度はアウトプットしましょう。

周りの方々に最高のドヤ顔で語っていただき、知識をばら撒くと同時にご自身の理解度確認も行ってみてください。

忘れている、理解できていなかったところがあればまたこのブログに戻ってきて、もう一度熟読してみてください。

足りないことがあれば、ぜひお気軽に僕にご連絡ください。

Twitterからでもお問い合わせからでも何でも良いです。

答えをお返しすると同時に必要であればブログに追記しますので、次に閲覧される方々にさらなる情報をばら撒くことができるようになります。

ぜひともご協力いただければ嬉しいです!

また、さくっと確認したいときにまとめて見れる一覧表を下に作成しました。

ぜひご活用ください。

【尿素窒素(UN)】まとめ
尿素窒素とは 尿素に含まれている窒素成分。腎機能が著しく低下すると高くなる
役割 生体内における働きはない
臨床的意義 腎機能の重症度判定(腎機能障害が起きているかどうかではない)
基準範囲 8.0g/dL ~ 20.0mg/dL
測定法 ウレアーゼ・グルタミン酸脱水素酵素法(内因性アンモニアを消去する方法)など
高値を示す状態・疾患 20.0mg/dL ~ 25.0mg/dL:高蛋白食、消化管出血など
25.0mg/dL ~ 50.0mg/dL:尿路閉塞や慢性腎炎など
50.0mg/dL ~ 100.0mg/dL:腎不全
100.0mg/dL ~:尿毒症
低値を示す状態・疾患 蛋白食、肝障害、妊娠、尿崩症
生理的変動 60歳以上で上昇、夜間より日中の方が高い、夏と厳冬にわずかに高値
干渉物質 特になし

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このブログがみなさまのお役に立てれば幸いです。

最後まで、ご閲覧いただきありがとうございました。

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