【臨床検査技師向け】精度管理の考え方|現場で使える精度管理を教えます

みなさんこんにちは!

「Webサイトエンジニア」×「臨床検査技師」のハイブリットおじさんこと、ウエノです。

Webサイトエンジニアではありますが、現役で臨床検査技師を15年しています。

今回はみなさんがきっと嫌いであろう「精度管理」について、現場で使える考え方を解説します。

「現場で使える」というのがポイントで、教科書に書いてあるような生ぬるいことではありません。

ガチのやつです。

あくまで今回は「考え方」を中心に解説しますので、技術的なことはお話しません。

例えば、日差を取っていたマルチコントロールが管理幅からはずれてきたときの対応とか、管理図の見方とか、そういう話ではないのです。

もっと初歩の「精度管理とは何?なぜやるのか」とかの話です。

本当にこれすらもしっかり答えられない子が溢れているので、まずはここからスポットをあてて解説していきます。

ちなみに「毎日同じデータを返してくるかを確認するため」とか「試薬に問題がないのか確認する」とかは間違いです。

今、このような答えが頭に浮かんだ子はぜんっぜんわかっていませんね。

だからこそ、そんな子たちにとってはこのブログはとても価値があると思いますよ。

最後まで読んで正しい知識をつけて帰ってくださいね。

だいぶ辛口に、時にソフトに解説していきます。

では、どうぞ!

冒頭にあった「精度管理とは何?なぜやるのか」という問いの答えについてです。

教科書的にはまさしく「毎日同じものを測定して決められた管理幅にはいるかを確認すること」ですが、正直これはある目的を達成するための「手段」であって、これ自体が「目的」ではありません。

では精度管理の目的とは何なんでしょうか。

それは「品質管理」です。

もっといえば「病院が患者に提供する検査データの品質管理」となります。

検査データも病院としては「商品」なのです。

その商品が「しっかりと信頼が担保された安心のできる物ですよ」と裏付けをするのが精度管理です。

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その精度管理はどうしたら信頼を担保できるのか、その手段となるのが上記の「毎日同じものを測定して決められた管理幅にはいるかを確認すること」となるわけです。

ですので本当の意味での「精度管理」とは、「病院が患者に提供する検査データの品質管理」をするために行う行為であると覚えてください。

また、「品質管理」ではなく「品質保証」でも良いです。

品質を「管理」するだけでなく「保証」しているという言い方でもとても良いですね。

病院や医療機関に勤めていると感覚が麻痺して忘れがちですが、僕たち検査技師は検査データを「商品」として病院側に提示しなければならない職種ですので、その品質管理を徹底して行わなければならないのです。

みなさんだって、もし自分や家族が病院にかかって、精度・正確性の欠ける検査データで診断されるのは嫌ですよね。

だからこそ、精度管理をしっかりと行って信頼性の担保できる検査データを提供し続けなければならないのです。

精度管理はとても大事な業務でありながらも、しっかりと理解できている検査技師は少ないのが現状ですので、これを読んだみなさんはぜひともまわりの人に教えてあげてくださいね。

そして検査データで訴訟起こされて負けたくないなら、ロジカルにしっかりと精度管理を組み立てておけば盤石だってこと、みなさんは知っておいてください!!!

さあ、明日職場に行ったらさっそく上司と「精度管理はこのままでいいのか」を相談しましょう。

今運用している精度管理のロジックを聞けるチャンスかもしれませんよ?

検査業界で最も多く使用されていて、最もメジャーな精度管理図方法といえば、やはり「Xbar-R管理図(Xbar-Rs-R管理図でも可)」でしょう。

わからない人のためにざっくりと説明しておくと、実施している検査項目に対して管理試料を用いて、毎日予め決めておいた管理幅に入るのかを確認し、それを日間として変化を追っていく管理方法です。

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「Xbar」はその日に測定した管理試料の平均値をプロットし、これは「正確さ」を表わしています。

「R]はその日に測定した管理試料の最大値と最小値の差をプロットしており、「その日の精密さ」を表わしています。

「Rs」はその日の平均値と前日の平均値との差をプロットしており、「日間の精密さ」を表わしいます。

臨床検査の現場ではこのXbar-R管理図が最も用いられているのですが、じつはこれ、臨床検査のための管理方法として開発されたものではないのです。

もともと製品工場などで使用されていたものを、臨床検査の場でも使用しているだけであり、臨床検査のためだけの管理方法ではありません。

この事実、知らない人が結構多いです。

検査技師の学校で使用されている教科書にもXbar-R管理図が当たり前のように書かれており、現場でも当たり前のように使用しているので、たいていの人は何の違和感なく使用していますが、まったく別の業界の管理方法を流用しています。

しかし、ぜんっぜん臨床検査の管理方法としては適していません。

なぜなら、一番大切なXbarの部分が「その日の平均値」なので、例えば1回目の測定値が高値で2回目の測定値が管理限界を超える低値であっても、平均化されてちょうど管理幅に余裕でおさまってしまい外れていることに気付けません

このような場合はその日の最大値と最小値の差を表わす「R」を見れば気付けることもありますが、仮に1回目が低値で2回目が管理限界をやや超えるぐらいの低値ならば管理幅内におさまってしまうのでまったく万能ではありません

ですので管理上限を超えるような問題が起きていても気付きにくいのがこのXbar-R管理図なのです。

一目で状態が把握できないのは不親切ですし、1つの管理図で日内変動を正確に追えないのも不便です。

臨床検査が始まって以来ずっとこの方法で臨床検査は管理されてきましたので、僕は臨床検査の精度管理方法は今も昔もずっと間違っていると思います。

こんな管理方法で品質管理なんて、本当にできるのでしょうか。

僕はそうは思いません。

ではどうすればしっかりと品質管理していると胸を張って公言できるような精度管理ができるのでしょうか。

シンプルに測定値をそのままプロットして変化を追っていけば良いのではないでしょうか。

ということでちょっと宣伝ですが、僕は「X管理図」というものを開発しました。

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あまり意味のない「R」も「Rs」も取っ払い、シンプルに測定値「X」をプロットして今の状態をリアルタイムに反映して管理していくのがX管理図です。

毎日いつどのタイミングで測定した測定値がどう動いているのかがわかりやすく、試薬や機械の状態が一目瞭然でわかる臨床検査に最適な管理方法といえるでしょう。

僕が開発したのでもちろん当院で導入しており、毎日このX管理図で品質管理を行っています。

実際の管理図が下記のようになります。

精度管理図の入力シート

上記の入力シートにデータを入力すると、下記のようにグラフに描画されます。※下記は3台分入力した例です。

精度管理図の日間追跡図

この管理図が欲しい、もっと詳しく聞きたい、運用について相談したいなどがありましたら、このサイト下部からお問い合わせいただくか、TwitterからDMいただければ対応しますので何かありましたらお気軽にどうぞ。

まだ企画段階ですが、今後お問い合わせのあった施設に合わせてX管理図を作成する有料サービスをはじめるかもです。

最後に実際にあった話でケーススタディをします。

まず前提として管理幅の許容限界は2SDとします。

ある項目で1回目のコントロール測定が管理幅から外れたため、再検をしている人がいました。

この光景はよく見ることですが、さらにその再検結果も変わらず管理幅外だったため、その人はただ単にもう一度再検をかけていました。

もうすでにここでかなり意味のない再検となっているのはみなさんはお気づきでしょうか。

この人は恐らく2回ともたまたま管理幅から外れていると考えているのでしょうが、2SDというのはおよそ95.4%のデータが入る管理幅ですので、偶然2回とも2SDを外れる確率はわずか約0.2%です。

ということで偶然外れているのではなく、何かしらの問題が発生していると考えるのが妥当なのです。

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例えば試薬が劣化している、コントロールのロットが知らないうちに変わっていた、試薬のロット間差、そもそも2SD幅が狭すぎるなど、原因はケースバイケースですのでその場で検証する必要があり、適切な対応をしなけれななりません。

ですので、無駄に何の処置もしないで管理幅に入らないからといって何度も再検するのは、精度管理の意味が解っていない証拠なのです。

間違っても何度も何度も測定して偶然管理幅内におさまったデータを採用してその場を乗り切るのはやめましょうね。

まずは最低限、精度管理は病院が患者に提供する検査の「品質管理(保証)」であることをよく理解しておきましょう。

ただ単に毎日管理幅に入っているのか確認するだけでなく、日々の傾向を追って異常に早く気付けるようにしておくのも大切です。

そして管理幅から外れたときの対応について同じ部署内で話し合っておき、有事の際に誰もが適切な対応をできるような体制を整えておければ理想的ですね。

精度管理は非常に重要な業務となってきますので、周りの人があまり理解していないようであればぜひみなさんが声をかけて、知識水準の底上げをしてもらえれば嬉しいです。

もしこのブログが役に立ったのであれば周りの人と共有してもらえるとなお嬉しいです。

みなさん宜しくお願いします。

ところでみなさん、今の年収には満足していますか?

次のブログでは臨床検査技師における稼ぎ方をご紹介しています。

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このブログがみなさんのお役に立てれば幸いです。

最後まで、ご閲覧いただきありがとうございました。

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